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オオカミは淫らな仔羊に欲情する

第33章 偶然


 俺は書類を机の上に散積したまま椅子に座り、
 後方の窓外へ目を泳がせていた。

 静流が入って来て、ため息をつく。


 (この度、彼女は俺の秘書となり、
  俺がこの期に及んでバカな暴挙に出ないよう
  お目付け役となった。ハッキリ言ってウザい)


「なぁにクサってんの? 
 今朝からずっとその調子よ。
 お昼はちゃんと食べた?」


 姑みたいに小煩い彼女に些かうんざりしつつ、
 俺はくわえタバコに火を点ける。


「どーでもいいけど今夜の約束はすっぽかさないでよ?
 あぁ、Wデートなんて久しぶり!」

「どーせ、兄貴は出張なんだからキャンセルだろ?
 行きたくねぇー」

「―― いい加減ハラを据えなさい。
 結婚するんだから」

「自分で決めた訳じゃない」

「こんな風に部屋へ篭ってばかりじゃ気分も
 鬱になるってもんだわ。ちょうどいいから、神田の
 本屋に私が予約した本取りに行って来てよ」

「かったりぃー」

「外の新鮮な空気を吸えば、そのぼっさぁぁっとした
 頭も少しはしゃっきりするでしょ。ホラっ」


 追い立てられながらエレベーターに乗った。

 外に出ると ―― ま、確かに晩春の風は爽やかで
 頭と胸の中の澱みも少しは薄れてくれそうだ。

 俺はゆっくり静流に指定された書店へと
 歩き出した。

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