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オオカミは淫らな仔羊に欲情する

第34章 3月31日

  
「……あ、あのさ、あや」

「ん?」


  涙をシャツの袖でごしごし拭った後、
  上目遣いで見返され
  勇人の心臓がドクン、と跳ねた。


「!!……さ、最後に、俺のわがまま、
 聞いてくれねぇーか」

「なぁに?」

「……き……き……」

「???」


 勇人は”―― き”と、言ったあとが続けられず、
 心臓(胸に)に手をあて軽く深呼吸。


「はやと?」

「……キ ―― キ、ス、させてくれ」

「―― へ?」

「……やっぱ、ダメか」

「い、いや……だめってか、
 そんな事面と向かって聞かれた事ないし、
 それにさ、勇人って利沙の事好きだったんと
 ちゃうの?」

「はぁーっ?? 何だよソレ。だいたいな、
 お前ら女同士でくっつきすぎ! 
 仲良すぎなんだよっ。体育祭でも秋祭りでも
 ツーショのチャンスあったっていっつも利沙が
 近くにおるから、何もでけんかったんやないかっ」

「なんもって……なに、する気やったん?」

「あ ―― そ、それは、まぁ ―― 年頃の男なら
 誰でも考えそうなこと……っつーか……俺はあやが
 ずっと好きだった。でも、お前帰っちまうし。
 何年か経って東京に来たっておそらく
 すっげぇオトナの女になって、俺の事なんかにゃ
 目もくれんやろ」

「そ、そんな事は……」

「だからお前の事は今、この場ですっぱり諦める」


 そう言って、勇人は絢音の頬へ両手を添えた。


「あやね……」


 勇人の顔がゆっくり絢音に近付いてゆく ――。    
 
 和泉 絢音・21才。
 
 この年頃の女子としては
 ”酸いも甘いも結構知ってきた”つもり。
 
 でも、失恋前提の告白の末、与えられたキッスは
 こんな雑踏の中なのに、
 唇を割って滑り込んできた舌がねっとり絡みつく
 ような、とても情熱的で濃厚なものでした……。

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