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オオカミは淫らな仔羊に欲情する

第10章 新天地・東京へ


 店から出てしばらく歩いた所で 
 ”キキキキキキーーーーッ”と、
 荒っぽい音が絢音の思考をかき乱し、
 静かな早朝の国道の空気を震わす
 騒々しさが沸き起こる。

 驚いて振り返ると絢音の背後に、
 ギュルギュルと
 タイヤを鳴らす真っ黒い車が停車。

 びっくりし過ぎてフリーズ。

 茫然としていると、
 その車の運転席からヨレヨレの
 白衣姿の男性が降りてきた。

 うわっ ―― ちょっと待て、あの人……。
  
 その男性には見覚えがあった。
  
 ヨレヨレの白衣に分厚い瓶底メガネの見るからに
 冴えないおっさん。
  
 忘れようったってこのインパクト大の容貌は
 そう簡単に忘れられるもんじゃない。
  
 絢音の通う高校で、
 化学の非常勤講師をしている。

  
 時間はもう朝だけど、
 ここは湾岸道路沿いの国道、
 こんな時間帯はまだ人気が少ない。

 そんな所に突如として出現した、
 妖しく黒光りする車。

 うわっ、しかもこの車、
 後部座席の窓が全部スモークシート貼りで、
 よく夜の歌舞伎町辺りで遭遇する
 ヤのついたお歴々のお車みたい ――。

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