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オオカミは淫らな仔羊に欲情する

第10章 新天地・東京へ


「別に獲って食いやぁしない(美味しそうだけど)」


 私は溜息をついて、笑っているダサみを見た。


「普通、あまり知らない子に食事なんて奢らない
 でしょ? それに、明日も朝早いんで、早く休み
 たいんです」

「帰りはちゃんと送るし、キミには今日は色々と
 世話になったから……」

 
 さっきから”世話になった”って、そればっか。

 益々怪しい……私のアパート突き止めて
 何かする気?

 ……怪しすぎる


「いいえ。やっぱり結構です、お気持ちだけで。
 失礼します」


 一礼して、身体の向きを変えて歩き出した私に、
 ダサみが声を掛けた。


「そうか……それは残念だなぁ ―― お台場に
 出店した焼き肉”彩華苑”の予約取ってあるん
 だけど」
 
 
 ”彩華苑”の名前を耳にした私の足はピタリと
 止まった。
 
 ニヤリ 微笑むダサみ。
 

「そうかぁ……そんなに急いでるんじゃ仕方ない
 誰か他の奴を誘うかな」


 彩華苑といったら、
 かの叙々苑游玄亭に勝るとも劣らない人気の焼き肉店
 
 「焼肉会席」と呼ぶにふさわしいこの店の料理は、
 上質で確かな素材の中から更に丹念に吟味を
 繰り返し。
 味はもちろん器や盛り付けにまでこだわった
 心づくしで、*月の開店以来。
 連日多くの人々を魅了し続けている。
 
 私みたいなごく普通の庶民では、
 高嶺の花の高級なお店だ。
 

「あ、あのぉ……ダ ―― 各務さん」

「ん?」

「……私、物凄く食べますよ」


 心ならずも”高級焼き肉”という
 餌に釣られ、彼のお誘いをオッケーした。

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