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オオカミは淫らな仔羊に欲情する

第12章 ある教師のボヤき


 何となく知ってはいた、うちの学校に時代錯誤の
 ヤンキー集団がいると……。


「―― えっ、それはつまり、俺にその生徒達を
 更正させろって事、ですか?」

「いいやぁ、そこまでは期待していませんよ各務先生。
 まさか、あなたに? アハ、アハハハ~ ――」

「ハハハ……」

「ただ、もう少~しあの問題児達をきつーく
 取り締まって欲しいって事です。
 あいつらを野放しにするとロクな事しませんから
 ねぇ。父兄や近隣住民達からの苦情が絶えないん
 ですよ。私も教頭として頭が痛い……幸い先生は
 クラス担任はしてないからお暇でしょ? 
 それに戴いているお給料分くらいは、しっかり働いて
 頂かないと!」

「そーですよ、普段ラクしてるんですから」


 俺と教頭・山ノ内の話しに割り込んできたのは
 数学の迫田だ。

 生徒達からは”ご機嫌取り”だの”腰巾着”
 だのと言われ、この男に好感を持っている
 生徒はいないと思う。

 かく言う俺もこの男は大の苦手だ。


「あ、でも、迫田先生……」

「いいじゃないですかぁ~、あなたPTAにも人気絶大
 ですしねぇ、竜二先生。その調子であいつらも
 手懐けて下さいよ」

「手懐けろって言われましても……」

「お若いんですから、体力だけは無駄に有り余ってる
 でしょうし」

「ア、ハハハ……」

「じゃ、頼みましたよ、各務先生」

「お愛想振りまくだけじゃなく、たまには役に立つ処も
 見せて下さいねぇ」

「あぁ! でも、絶対生徒には手を上げないで下さいね。
 教育委員会やマスコミが煩いですから」 



 !! …… じゃあ、どうしろってんだよっ?!

 学生時代、大きな借りを作ってしまった
 教育委員会の教育長から泣き落とされ、
 この春の新学期から産休に入る化学教師の
 代打として、渋々赴任したが ――。

 ”産休の代替教師”非常勤講師だとは言っても、
 嫌味な上司&先輩、生意気な生徒、
 面倒なPTA ――。
 いい事なんかありゃしねぇ。

 あ~ぁ、なんかないもんか……
 この殺伐とした毎日に僅かでもいいから潤いは。

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