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夜の影

第26章 in the park

【智side】

「君があの時の子か……そうだ、サトシ君、て名前だった。団地の側の鍛冶屋の子だろ? 1〜2回送って行ったことがある。ケンがいつも……。
ケンと一緒に、遊んでくれて有難う……」

話の途中でサカモトさんが来て加わった。
彼はオイラが誰が分かると、最初は驚いて明るい声を出したけど、すぐに辛そうな顔になって言った。

「ノリユキさん、俺はやっぱり自信がありません。
サトシ君の顔も言われるまで思い出せなかった。
もうケンの顔も……。
あれはケンじゃないのかもしれないです」

「…………」

ヒガシヤマさんは何か考え込んでいる様子で、サカモトさんには答えない。
二人の表情に疲労が見えて、オイラは今更ながらに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

ケン君が本当に行方不明になっていて、あれから10年以上もの間、お兄ちゃんが探し続けていただなんて。

「あの、かーちゃんが、ずっと後悔して。
オ、僕がもっと、ちゃんと役に立ってたら良かったのに」

何て言ったら良いのか判らないまま、オイラは言った。

「サトシ君……気にしなくていいんだよ。
一年生の子供に出来ることなんてない。
……居なくなったのが君じゃなくて良かった。そうなっていたら、あのお母さんが悲しんだだろう」

え?

「かーちゃんを知ってるんですか?」

かーちゃんとケン君のお兄ちゃんが話したことってあったっけ?

お兄ちゃんは悲し気に一つ頷いて教えてくれる。

「一度君を送って行った時にね……。
お母さんのお仕事がお休みだったのに、ケンに会いに公園に来てくれたことがあったでしょう?
夕食を一緒に、って言ってくださったのをお断りしたら、沢山おかずを持たせてくれて。
……俺はね、申し訳ないことに施しは要りません、って拒否したんだ。
じゃぁ今回だけにするから、って仰って。
息子がいつもお世話になっているお礼だから、って。
……お母さん、亡くなったんだってね。
とても残念だ」

「あ、はい……」

「ケンから聞いていたかもしれないけど、家庭の事情がある子供はどうしても虐められ易い。
学校ではケンと仲良くしてくれる子が殆ど居なかったんだと思う」


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