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夜の影

第9章 ショウ

【翔side】

うわー、なんだこれ…。

洗面所で鏡を見たら、顔が物凄く浮腫んでてビックリした。

歯ブラシを手に固まってる俺を見て、サトシが不思議そうな顔をする。

顔が!
浮腫んでる!

って、身振り手振りで伝えたら、サトシは吹き出すのを我慢するみたいに変な顔をして。

「くっ、顔がデカイ?」

違う!
いや、違わないけど!!

オイッ、ってお笑いの人みたいに突っ込む仕草をしてやった。

サトシはウケて笑って、先に風呂場へ入って行く。

間もなくシャワーを使う音が聞こえてきた。





変なの。
まるで友達みたいだ。

俺は歯を磨きながら、いつまでも可笑しくて、にやにやが止まらない。

考えてみればサトシとは年も近くて。
学生同士として知り合ってても、おかしくなかったんだ。

凄く気の合う友達になってたかもしれない。

学校で普通にふざけ合って、馬鹿な話をして。
一緒に映画に行ったり、お互いの家に遊びに行ったり。
女の子の話をしたり、してたかもしれない。

そういう出会い方をしてても、おかしくなかったんだなぁ、と思いながら、鏡を見た。

そこに映っていたのは、いつもより丸くなった自分の顔で。

口元に笑いの名残をとどめた表情が、我ながら父によく似ていた。

お父さん。

と思って。

ヒュッ、と現実が押し寄せてきた。

浮ついてた気持ちが急にしぼんで、自分の顔が暗くなるのが分かる。





俺は何を、笑ってるんだろう。





外 務 省 勤務で、通 訳をメインに働いていた父は。
ある日突然、有り得ない場所で 縊 死 した。

ご丁寧に添えられていた 遺 書。

訳が分からずに呆然とする俺達家族に、いきなりやってきた借金の取り立て。

日常生活が送れない程に催促が来て、弟と妹は母の田舎へ避難させるしかなかった。








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