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夜の影

第2章 The first impression

【翔side】

サトシという男に促されるまま、社長の部屋を出る。

「お前、腹減ってない?」

非常階段を一階分下りて、外廊下を歩いていると彼が言った。
俺は思わず、考えるより先に首を横に振る。

腹が減ってるかどうかなんて、正直、緊張してよくわからない。

「ラーメンぐらい食えない?付き合ってよ」

サトシが言うから、ちょっと考えて今度は頷いた。

「サンキュ。俺、鍵返してくるから
先にエレベーターまで行っててもらっていい?」

了解の意思表示でまた頷くと、サトシは俺を見てふにゃっと笑った。
優しい笑い方だな、と思って見つめてるうちに、ドアの中へ消えた。





社長の前に立っていた時は無表情で、臨戦態勢、って感じだったのに。
上の部屋を出たら雰囲気が全く変わった。

かなりの猫背で、デニムのポケットに手を突っ込んだまま足を擦るように歩く。

所どころ金髪に近いような髪と、サンダル履きにスカジャンという服装で。
まるで高校生の不良みたいなルックスだけど、あどけない顔立ちが輪郭を柔和にしてる。

二人になってからは話し方もむにゃむにゃしてて。
背も俺より低いし、とても年上には見えない。

エレベーターの前で下向きのボタンを押して待つ間、さっきの光景を思い出していた。





男同士が深いキスをするところを初めて見た。

甘い雰囲気は全くなくて、二人とも無表情のままだった。

社長は挨拶、って言ってたけど、あの人達はいつもアレをやってるんだろうか。
もしかして俺もするのか?

ここまで来て今更怖気づいても仕方ないのに、床が斜めになるようで足に力が入らない感じだ。





生まれた時から普通に持っていたものを全て失くしたんだ。
何故こういうことになったのか、原因を突き止めなければ先に進めない。

ここの噂は以前、父から聞いたことがあった。
海外からの要人を相手に、若い男娼を使ってスパイもどきのことをさせてる組織がある、って。

偏差値の高い大学の生徒が狙われるらしいから、何か見聞きしたら教えるように、と言われた。

その時は漫画のような話だと思ったけど。
大学に休学届を出しに行った日、二宮に声を掛けられて俺はすぐにこの話を思い出した。

父は外務省絡みの仕事が多かったから、何らかの手掛かりを得られるかもしれない。
それで二つ返事で話に乗った。





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