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my destiny

第16章 Accident 3

【翔side】

電話に出たのは男だった。


『あ~もしもし?』

「あのっ、智はっ?」

『大丈夫だよ、泣き過ぎてグチャグチャだけど
なんか、いろいろ悪かったな
おまえら、芸能人なんだもんな
知らなかったんだよ、俺も驚いたし

あ~、なんだ、わかんねぇけど
この後、もしかして大変なのか?』


刑事さんが頷いたから、そのまま話し続ける。
智君が泣いているせいか、男の方がむしろ穏やかだ。

相手の本音を引き出すには、こちらも真摯に。
誠実でなくてはならない。
俺は正直にありのままを言った。


「はい、ライブが近いので…」

『なんか、こいつ子供みたいに泣いてるからさぁ
かわいそうになってきた』

「智君は、ライブが出来なくなるかも
って、心配してるんです」


この人には智君と共通の知り合いがいる、しかもそれは、あのボンちゃんだ。
信じろ。
智君はこの男を良い人だと言った。
この男だって、智君と親愛で結ばれた人間関係に連なる人なんだ。

俺は、人間の善性を信じる。


「お兄さん、俺たちを助けてもらえませんか」

『ああ?』

「騒ぎになると本当にまずいんです」

『…うーん、そうだな…
騒ぎってテレビとか文春とかだろ?

あ~、だから泣くなって

わかったよ
俺はどうすればいいの』

「有り難うございます!!」


ヨシ!!!
ここまで来れば、何とかなる。


俺はまた両脇に居る刑事さん達と頷き合った。
上手くやれば、この人の罪も軽くなるかもしれない。

話を続けて、ガソリンから気を逸らしておく必要がある。


「智君が、お兄さんのことを良い人だって言いました
だから俺も、アナタのことを信じます」

『へっ、良い人じゃねーよ』


俺は男との会話を続けた。

それからの時間は今まで経験したどんな生放送よりも緊張した時間で。

あれに比べたら、どんだけ一発本番の収録でもかわいいもんだよ、って。
後年、仲間内で話すことになるくらい。

この時の俺は、智君を取り戻すことしか頭になかった。


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