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my destiny

第9章 Scar

【智side】

仕事しないで毎日休みだったらいいなぁ、って子供みたいに思ったりするけど。

仕事があるからこそ、休みたい、って思えるんだし。

80歳は無理として、でも踊りも歌も、見苦しくなく出来るうちは何でもやらせてもらって。

そしたら、オイラ、後は翔君と一緒にのんびり過ごすんだ。

80歳を過ぎたじーちゃんが男同士でくっついてたって、きっと誰も何も言わない。

問題は俺たち二人が元気でピンピンしてるかどうか、だけど。
やっぱり健康第一だよ。



「社長、聞いてます!?」

「なんだよ、うるさいなぁ」

オイラがドラマの役のままに振り向くと、そこにはキャリアウーマン風のスーツを着た神様がスケジュール帳を手にして堂々と立っていた。
ご丁寧にウィッグもつけている。

「……びっ、くりしたぁ……」

秘書役になり切っているのか澄ました顔だ。
神様の後ろに、運転手の衣装を着たエンケンさんが控えている。
堪え切れないように、にひひ、と笑いながら言った。

「うまく行きましたね」

「うむ、完璧だな
いや、完璧でございます」

途中から声色を変えてる。



「あ、うん…完壁だね、ありがとう」

「社長、カンペキの文字が違っておりますわよ」

神様は柿の種みたいな目を、精一杯大きく見開いて言った。
デコに横三本、皺が浮き出てる。

腹の存在感がすごい。

「え、っと…何か用?」

「随分な言いようじゃありませんか、ねぇ」

「ですよねぇ」

だって、オイラは別に用事ないもん。

「自分の歌は歌えるようになられたんですか?」

神様が言う。
えっと、ちょっと待って。
時間差で笑いが来た。
これ、エーコちゃんだよね。
見ちゃダメだ、止まんない。

「あら、可笑しいですか?」

ヒール履いてるし。

「衛星中継のタイムラグですね」

酒屋の前にあるタヌキの置物が秘書をやってるみたいだった。




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