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my destiny

第14章 Accident 1

【智side】

「やめてよ、お願いだから
貴方が優しいのは知ってるけど
そうやって思いやっても相手によるでしょ
引き寄せたらどうするの」

「うん…ごめん…」

「ああ、胸騒ぎがする
早く新幹線来ないかな…」

翔君が言った直後にアナウンスが流れた。
遅れていた1本前のやつが発車するらしい。

「ようやくだ」

言った翔君の肩越しに、さっきの男性が階段を上がってくるのが見えた。

「あ」

発車の音楽が鳴る中を、男が今にも転びそうに足をもつれさせながら、向かいのホームに停まってる新幹線に向かって走り出す。

翔君が俺の視線に気づいて振り返った。

「あっ」

子供が。

前を全く見ないで走ってくる男の子がいる。
あのままだと男にぶつかる。

「智っ」

オイラは考えるより先に走り出してた。
背中で翔君の舌うちがして、追いかけてきてくれるのが気配でわかった。



スローモーションみたいだった。
俺は男を止めるために右へ行って。
翔君が子供を守るために左へ行った。

ぶつかって男もオイラも、すっころぶ。
男が持っていた紙袋から、ガソリン入りと思われるペットボトルが落ちて。
何度か跳ねて横に転がる。

視界の端で、翔君が走りながら子供を抱き上げたのが見えた。



「てめぇ!何すんだっ!!」

男が血走った眼でオイラを睨んだ。

「すいませんっ!」

とっさに言ったけど、胸ぐらを掴まれて目の前に拳が迫ってくる。

殴られるっ。

覚悟して目をギュッとつぶったら、近くで女性の悲鳴が上がった。

「智っ!」

翔君の声がする。

「くそっ、来いっ」

酒臭い息が顔にかかって、体が持ち上がる。
男は落ちていたペットボトルを拾うと、そのままオイラをズルズルと引き摺って行く。
近づいてみるとかなり大柄で、力が強い。

足がちゃんと立たない状態だから、抵抗しようにも体勢が整わない。

発車の音楽がベルになる。

「智っ!!」

翔君が子供を抱いたまま走ってくるのが見えた。

「翔ちゃんっ、子供!」

気づいた翔君が、慌てて子供をおろす。
母親らしい女の人が駆け寄って来て子供を抱えるのを、オイラは新幹線のデッキから見た。

「翔ちゃんっ!!」

ドアが閉まる。

「智っ!!」

こっちに走って来て手を伸ばしてるけど。
届かないうちに、新幹線は動き出した。





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