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注射、浣腸、聴診器、お尻ペン。

第12章 便秘

翌朝、脇坂先生の様子が明らかにおかしかった。



白衣の下のシャツが乱れ
目は赤く充血している。



昨日の夜は当直だったんだよね。



「ごめん。聞こえてなかった。何か言った?」




『何にも言ってないよ。先生、ボーッとしちゃって大丈夫?当直がそんなに大変だったの?』





「昨夜はちょっとね」





先生は、眠そうに目をこすった。




「美優ちゃんのケーキの後、救急搬送されてきた人が、透析拒否したまま退院した人だったんだ。それで、処置室で首静脈から心臓までカテーテルを挿入して緊急透析をしたんだよ。その人が、すごく苦しがってたから朝まで付き添ってたんだ」





『透析拒否した人だったんだね』




「僕ら医者が透析導入の大切さについて…もっともっと根気よく説明するべきだったと後悔してるんだ」





『先生のせいじゃないと思うけど』





「美優ちゃんはそんなことにならなくてよかったね。ちゃんと透析やるって言ってくれたもんね」




『まぁね』





言ったけど。






『透析の前に、一度家に帰りたいな』



「帰りたい?」



『うん。帰りたいよ』




「帰りたいかぁ。それじゃ帰ろう」




『本当に?いいの?』



「ただし僕の休みの日にしてもらえるかな?」





『先生も一緒に?』






「うん。僕は家庭訪問だけどね」




『お医者さんなのに家庭訪問なんて…なんか変だけど、でも家に帰れるのはうれしい!』




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