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兄弟ですが、血の繋がりはありません!

第9章 未来なんて不確かなものを見る


智希side

「智希はさ、就職活動とかしてる?」

学内の壁に許可を貰って、壁画を作っている時だった。例の人体模型をくれた女友だちが急にそんな話をし出した。

「…いや、なにも」

「だと思った。智希がスーツ着てる姿さえ想像出来ないもん。・・・何になりたいとかはあるの?」

なんだろう。
こんな話が彼女から出て来たのは初めてだ。

「うーん・・・絵を描き続けたい、それくらいで何になりたいとかは、全然。あ、でも絵の具屋さんとか楽しそう」

「絵の具屋さんって、ピンポイントすぎ。…まぁでも、そんなもんだよね。私、何も見えてないからちょっと焦ってたんだけど今の話でちょっと気が楽になった」

早い人は大学に入って落ち着いたらすぐに就職活動のことを考え始める。2年にもなればその数は多くなる。

焦ってたんだ。俺はまだそういうの、ないなぁ。

「…、絵を描いて食べていけるなんて思ってないからさ余計にね。私が大事にしてきた事は何の役にも立たないんだなぁって、就職のことを考えたくなくなっちゃった」

空になった絵の具のチューブをゴミ袋へ投げ込みながら、彼女は1つ溜息をついて困ったように悲しそうに、笑う。

「好きな事をやって生きていくことは出来ても、それでお腹が膨れるとは限らないな」

思わず出た言葉に、『自分もか』と気づく。

興味の無いフリをして、まだ考えてないなんて自分に嘘をついて。だけど本当は分かっていた。

ずっとこのままじゃいられないこと。

「何になろうかなぁ・・・」

夢とかないし、小学校の卒業文集には何を書いたかすら覚えていない。

「私、智希は経営者とか向いてると思う!」

「何急に、俺に経営者なんて向いてな…」

い。そう口から零れそうになった瞬間。

「方来!!おま、これっ、まじごめん!!」

血相を変えた別学科の友だちが壁の向こうから飛び出して来た。

「何事?」

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