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兄弟ですが、血の繋がりはありません!

第10章 ページを捲って遡る


「えと、え…?俺の物語って・・・」

突然の出来事に困惑していると、握っていた俺の手をパッと慌てて離した橘さん。

「すすすすっすみませんっ!!私ったらまた前しか見えなくなっちゃって!」

高速で頭を下げるものだから、もはや残像しか見えない。なんだこの人。

「あのですねっ私が初めて北ヶ谷さんの作品を見た時、絵と話が噛み合ってないというか違和感を覚えたんです。それで彼に連絡を取ってみたところ絵の作者は別の人、つまり方来さんだったという話です」

「はい、」

分からない…!!
それとこれにどんな意味が…?!

「だから、方来さんがこの絵を描いた経緯や想い、背景を教えて欲しかったんです」

やっと落ち着いた橘さんと、話の内容に俺は初めて言葉の意味を理解した。

「経緯・・・ですか。この1枚目、街の絵は俺の末の弟が幼い頃に見ていた世界を自分なりに描いてみたものです」

それは近所のちょっと大きなスーパーの屋上からの景色を白と黒、所謂モノクロで描いたシンプルな絵。

「俺は小さい頃から人の感情が色に見えたり、なんでも目に付いたものの色を言ってみたり、兎に角いつも色のことばかりで。2人弟がいるんですけど、2人にもそればっかで」

『鶫のズボンは青と黒と白で作ったジーンズかと思ったら、オレンジもあるね』
『悠の瞳は周りが黒で中は茶色で、光が当たるとキャラメルと同じ茶色に光るのすごくキレイ』

そんな日々の中で、悠が言ったことから描いた絵。詳しくは、そんなこと言われたなって大学入ってから思い出したのを形にしたもの。

『智にぃの目はいつも色が見えてるんだね』
『智にぃの世界は白黒の僕とは違う、虹色だ』

色を知らない、色を見ることを諦めてしまった弟の世界。

あの頃の悠は、澪さんのことがあって色んなことがいっぱいいっぱいだったのだろう。色を見る余裕などなかったはずだ。

無意識に自分で創り出してしまったモノクロの世界は、きっと物凄いスピードで悠の心を蝕んだだろう。

それを1枚にぶつけた絵。

「仮タイトルですけど、きみのまち、です」

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