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兄弟ですが、血の繋がりはありません!

第10章 ページを捲って遡る


悠side

「よろしくお願いします」

朝早く、まだ日が昇ってそんなに経ってない。
俺は駅のホームに立っていた。

「よろしくな、悠。台本は頭に入れてきた?」

「はい。台詞多くないので、なんとか」

昨夜、兄たちに見つかると面倒くさいからと1人でこっそり覚えた台本。

口に出して覚える方法だと見つかる為、ひたすら黙読したのだ。これで覚えてなかったら泣く。

今日は例のCMの撮影日。4時起きでやって来た駅は少し山の方にある、こじんまりした場所だった。

「んじゃあまぁ、台本見たから分かると思うけどここが主人公__悠の実家がある駅で、ここから進学の為都内へ引っ越す。そこで行き詰まって開いたアルバムを見た悠は、母親に電話をかけてもう一度立ち上がる。という一連の流れは大丈夫か?」

「あ、はい…」

中々ザックりした流れの説明だ。

「ここから本題。この駅で撮るのは冒頭部分の見送りに来た母親と一言も言葉を交わさず電車に乗り込むシーン。電車に乗った息子にエキストラさんが『体に気をつけて』と言う以外は台詞なし」

「その母親の声って聞こえてない設定ですか?
それとも微かに聞こえて電車の中から母親を見る?」

「聞こえないし、見てもいない。電車に乗ったらスマホを触りだしてもいいし、ホームに背を向けて立ってもいい。そこは任せるよ」

そういえば、誰かに見送られた記憶って数えられる程度しかないな。母さんは朝は居ないことが多いし、小学生の頃は兄さん達の方が先に家を出ていたから。

「あの、その母親役の方と少しお話させて貰ってもいいですか?一度声とか聞きたいし、いってらっしゃいって言って欲しくて…」

「!・・・ああ、いいよ」

たった数十秒だとしても、親子になるんだから。
母親との空気感を味わっておきたい。




「こりゃ、化けるぞ・・・」




遠くの方で東郷さんの声がした気がしたけど、なんと言ったのか、この時の俺は聞き取れなかった。


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