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徒然に。

第9章 KLEIN kino

眼を覚ましたら久しぶりに左目が痛みを訴えた。
どれだけぶりだろう?
寝乱れた寝台から身を起こすとやはり痛みが走る。

「痛む?」

いつもなら不機嫌に『勝手に起きないでよ』と言う奴が寝起きでない声で問いかけた。

「…………………薬ちょうだい……」
「うん」

ゆっくり身を起こしてベッドサイドの引き出しを開ける。
その引き出しは魔法がかけられてある為に自分が開けることは出来ない。
過去に開けた為に引き起こした経験から、こいつの涙ながらの訴えに負けた俺は引き出しを開けずにいて何年になるだろう?

「水と一緒だけど珈琲は昼まで呑まないようにね?悪酔いするから」

思いがけず久しぶりに聞く注意事項。

「なに?また俺が悪酔いするなんておおポカやらかすと思ってんの?」
「しょうがないじゃん、絶対飲み過ぎダメ!ってさんざん言ったのに聞かなくて過剰摂取で倒れたの誰?」

売り言葉に買い言葉、とはこいつのこと。反論は常に専売特許。加えて口が回るくせに頭も回る。嘘と方便も使いよう。
喧嘩腰なこいつに腹をたてるのも日常だがいかんせん今は無理。
水と共に薬を呑むが………………

「ングッ、ゲホッ、ゲホッ、はぁ」
「なぁんで水呑むだけでむせるかなぁ?」

背中をさする優しさは忘れない。
口調や言い方で誤解を受けがちだがあえて言おう。表情が合ってないぞ?と。
何なんだ、その子供が放り出される時の顔は?
お留守番しててね?と言われた時の顔は?

「ずるい」
「うん、じゃないと一緒に居らんないじゃん」

対して多くを語らない俺に気が回るこいつとは話しが合う様で意外に合わない。そこはもうご愛嬌だな。そういうことにしておこう。

こいつをまじまじと見る。
白い肌に成らざるをえない俺と焼けた肌が印象深いこいつ。が、それは着こんだ服のせいだからだ。
今は寝乱れた寝巻きのせいで中途半端な焼け具合いに笑いがこみ上げる。

「何?」
「見ない間にまた変に焼けてない?」
「だからしょうがないじゃん、そっちほど引きこもってないの!俺は!悔しいならたまには外出なよ?不健康め!」

怒っているようで実は怒っていない。単に心配している。そう指摘を受けたのは過去に起こしたおおポカの時だ。

懐かしい。

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