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桜華楼物語

第10章 梅香

「ほおら、動くな…。じっとしてろい…」
呆れたような顔で男が声を掛けると、女は止まったまま眉をひそめて。

「わかってますよ…わかってるけど…動かないのって疲れるんだから…」

女は布団の上に寝そべり。
着物は乱されて、片足は膝立ちして開くと隙間から無毛の割れ目が覗く。

男はの視線は鋭く射抜くように、女の身体を眺めて…そして筆を走らせている。

男は梅香の客で、絵師をしている。
ふらりと現れては、梅香の様々な姿を描いている。
腕は確かなものらしく、なかなかの値が付くという。

「ん…ちょっと肌に赤みが足りないな。さてさて…」
「そんなの…あんたの匙加減じゃありませんか。ちょっと赤みを足せばいいじゃありませんか…」

もういい加減疲れてしまって、早く終わりたくてつい文句を言ってしまう。

「そんな事は百も承知だが…それじゃ写し絵じゃないからな。この目で見た通りを描きたいのさ…」
それが絵師だと言わんばかりの勢いで。

ふと、何かに気づくと…道具箱の中から少し大きめの筆を取り出して。
布団に近づくと懐から手拭いを出し、梅香に渡すと言った。
「これで自分で目隠ししな。」
「え? どうして…?」

いいからしろ…とあまり言うから、仕方無く言われた通りに。
視界は塞がれ、少し不安を感じつつ…これが何の意味があるのかと言うと…。

そのまま動くなよ…
声は出していいから…

声って…?
そう思った途端に…肌に何かが触れた。
ビックリしてひゃあ…と声が出て身体が動いた。

「ほら、動くなって…これは筆だ…嫌な事はしないから…」
絵師は着物を更に乱して、ほぼ半裸にしてから。
白い肌にそっと筆で触れて…。

な…に…?
目隠しされた暗闇の中で、自分の動悸が身体に響くように高鳴り。
筆の感触は、静かに繊細に…滑るように肌の上を撫でていく。

擽ったいと感じたのは最初だけで。
身体が動く代わりに、声が漏れる…。

「どうだい…? 暗闇でも怖くないだろう…? どこに触れられてるか集中してごらん…」
耳元で囁かれてる間も、筆は動いて…。

頬を…顎を…首筋を…
上から順番かと思えば、いきなり臍や脇腹に触れて。
その度に、ハッとして…。

身体の内が、少しずつ熱を帯びてきて。
漏れていた吐息は、徐々に言葉となって。

そこ…あ…んあ…いい…

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