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あなたが私の最高な人

第2章 Act.2-01

「だいぶ年取ったんじゃない?」

 仕草がジジ臭いな、と思った私は、考えるよりも先に口に出してしまった。

 案の定、私の言動に彼は溜め息交じりに突っ込みを入れてきた。

「失礼な。これでもまだまだ周りの若い連中には負けちゃいないと思ってるけど?」

「もう四十でしょ?」

「四十じゃない。まだ三十九だ」

「大して変わらないじゃない」

「三十代と四十代じゃ天と地の差がある」

 些細なことでムキになるところも全く変わっていない。
 でも、こういう子供っぽさを見せるところもまた、私は好きだったのだけど。
 いや、今でも嫌いじゃない。

「弘尚(ひろなお)さん、可愛い」

「オッサン相手に可愛い言うな」

「あら? 年寄り扱いされるのイヤじゃなかった?」

「それとこれは別」

 ちょっと突くとすぐに反応してくれるから面白い。
 さっきまで感じた胸の痛みはどこへ消えたのだろう、と自分で自分に驚いている。

「さて、どうする?」

 彼――弘尚さんは真顔で私を見つめてきた。

「気分が良くなったようだから帰る?」

 こんな質問をしてくるのはどういうつもりだろう、と考える。

 私が意識を失くしている間、弘尚さんはひとりでシャワーを浴びていた。
 そして、本当はどういう意図でここに運んで来たのか。

 自惚れかもしれない。
 けれど、ほんの少しでも私を抱きたいと思ってくれたのか。

「帰らない、って言ったらどうする?」

 今度は逆に私が質問した。

 弘尚さんは必死で平静を装おうとしていたけれど、目が忙しなく泳いでいたから動揺しているのは一目瞭然だった。

「もう、私にその気はない?」

 落ち着かなくなっている弘尚さんにさらに距離を縮め、私はそのまま彼の手に触れる。

「――君は男を誑かす天才かもな」

 失礼極まりない言い回しだ。
 でも、それほど弘尚さんは自分の中で理性と感情と格闘しているのだろう。
 そう思うと、別に腹は立たない。

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