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ダブル不倫

第2章 プロローグ

 今、四十五歳の里井は学生の頃、声楽部に所属していたらしく、小柄ながら圧力のある怒声。大の大人でも殴り飛ばされるのではないかと思ってしまうくらいだ。奈々葉は彼が最近離婚した、という話を誰かから耳にしたことがあった。
 
「ダメだ、コイツ! 誰か手伝ってやれ」
 
 バンと床に書類を投げつける。飛び散った書類がハラハラと空を舞った。
 
 奈々葉の後輩、佐々木陽太(ささきようた)が首が落ちるのではないかと思うほど項垂れている。
 
「部長? 里井部長? おはようございます。ハイ……」
 
 里井の眼鏡の奥の無表情な目が奈々葉を睨みつけて言った。
 
「ちぇっ、空気読めねえ奴だな。おまえって宮崎」
 
 里井の眉間に深いシワが入った。

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