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　午後一時三十二分。二日振りに奈々葉は自宅の玄関の前に立った。

　急に眠気に襲われる。奈々葉は鍵を開けた。

　人の呼吸か……何かの気配がした。

　耳を澄ませる。

　ブーン……と低音のモーターの音……。エアコンの室外機の音だ。電化製品を点けっぱなしで外出することなど、几帳面な信也にはありえなかった。

　――信也さん？　まだ、いるの？

　ダイニングのドアを開ける。ダイニングテーブルの上に二つのセットのコーヒーカップと、奈々葉の見覚えのあるタオルハンカチが丁寧に折り畳まれてあった。カップの一つには真っ赤な口紅の跡が……。

　嫌な予感がした。心臓の音が頭の奥で響く。

「ただいま……」と囁きながら静かに寝室のドアを開ける。エアコンの冷気が奈々葉の髪を揺らす。真夏の乾いた汗に似た空気の臭いが鼻を突いた。