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歪ーいびつー

第5章 奏多



「ーー夢! 」

男に連れられて立ち去って行く夢の背中に向かって声を掛けると、夢はビクリと肩を揺らし、立ち止まるとゆっくりと振り返った。
夢の目には涙が溜まり、俺を見る瞳は怯えている。
そんな顔をさせたい訳じゃない。
誰よりも可愛がり甘えさせたい。
そう思うのに、男と繋がれた手を見て悔しさと怒りで目が鋭くなる。

「行こう、夢ちゃん」

男はそう言うと、再び夢を前に向かせて立ち去って行く。

こんなはずではなかったーー。
昔からとても可愛かった夢は当時からよくモテていた。
高嶺の花すぎて声を掛ける者はほとんどいなかったが、それでも近付こうとする者も中にはいた。
俺は常に夢の隣にいる事で他の者を寄せ付けないよう徹底した。
中学の頃まではそれで良かった。
ただの幼馴染だと皆わかっていても、俺が隣にいるだけで充分な牽制《けんせい》になっていたのだ。

夢の隣にいられるなら俺もそれで良かった。
夢の気持ちが未だに涼にある事がわかっていたから、俺も無理にこの関係を崩そうとはしてこなかった。
ただ、隣にいる内にいつか気持ちが俺に向いてくれる事を願ってーー。

それは、高校でも変わらないはずだった。
朝は毎日夢と手を繋ぎながら登校し、帰りには教室まで迎えに行くと、周りに見せ付けるようにして夢の髪を優しく撫でる。
夢に恋心を抱く男達は、ただ遠巻きにその光景を眺めているだけだった。

ーーけど、この男は違った。
【ただの幼馴染】という関係では、このまま夢を取られてしまう。そう、俺に思わせた。

男と手を繋いだまま立ち去って行く夢の背中を見つめながら、握った拳を怒りで震わせる。

「……許さない」

俺はそう、小さく呟いた。






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