無料で楽しめるちょっと大人のケータイ小説

　　　　　　　　　１

　電車から降りると、９月も中旬というのに、ムワッとした暑さがおそってきました。
　改札を出て、自販機で冷たいものを買おうかなとも思ったのですが、清さんの家にいけば、冷たいものはあるのだからと、そのまま歩きだしました。
　そして、冷蔵庫で冷やしたタオルも、きっとすぐに渡してくれるにちがいないと思い、はやく着きたいという気持ちになりまして、歩みが速くなりました。
　ドアホンを押す。
　そのまま開ければいいのにと清さんは言うけれど、なぜかつい押してしまう。
　すぐに「はーい」と返事。
　玄関の戸を開けて入ると、やはりすぐに冷たいタオルを渡してくれました。
　部屋にあがり、首筋を冷たいタオルで拭いていますと、
　「麦茶と水とジュースと
　　どれがいい？」
　と聞いてくれました。
　清さんは、いつも二つか三つを聞き、わたしが選ぶようにしてくれるのです。
　「麦茶がいいわ」
　と言いますと、冷蔵庫から麦茶を出しながら、
　「ステーキと
　　具だくさんの中華スープ
　　それに
　　サラダにしたけど
　　いい？」
　と言いました。
　「ありがとう
　　ステーキか
　　いいね」
　「ビールがいい？
　　ワインがいい？」
　「ビールを
　　一杯と
　　あとワインかな」
　「暑いから
　　ビールが
　　おいしいよね
　　萌絵ちゃん
　　きょうは
　　楽しいことがあった？」
　そうなのです。
　清さんは、いつも、
　「楽しいことがあった？」
　と聞きます。
　わたしだけでなく、経営している塾の子どもたちにも聞きます。
　「楽しいことが一番」
　というのが、清さんの口癖です。
　楽しいことを見つけるような生き方をすれば、少しくらい嫌なことがあっても、乗り越えられるというのが、清さんの考え方なのです。
　わたしも、その考え方はいいなと思っています。
　それも、わたしが、清さんを好きな理由の一つです。