森の中
第6章 6 思い出
君枝は瑠美と冬樹の後姿を見送って、亡き恋人の聡志へ思いを馳せた。
「ほら、君枝見てごらん」
「なあに、聡志さん」
聡志の掌に艶やかな赤い小石が乗っている。
「綺麗だろう。この前、森の中で見つけたんだ」
「ふふ。赤くてルビーみたいね」
「生まれてくる赤ちゃんに」
「そうだ。女の子なら名前をルミにしようかしら。ルビーみたいだし」
「情熱的そうだねえ。なんだか心配だなあ。父親としては」
「やだあ」
聡志がまだたいして膨らんでいない君枝の腹を優しく撫でる。
二人は富士山で出会った。
気持ちの良い初夏の早朝、聡志は本格的に富士山の頂上を目指すべく、万全の準備をして五合目を起点とし山の天候を眺めていた。
そこへ君枝が目の前を横切る。真っ赤なピンヒールとミニスカートですたすた歩いている。五合目はまだまだ観光地とはいえあまり目にしないファッションに聡志は目がちかちかした。君枝から見た聡志は本格的すぎる登山の格好に唖然とした。お互いに場違いな印象を受ける。しかしおかしなもので吸い寄せられた視線をかわすことが出来ず、不思議な引力が働いた。
「あの、君。ここで何してるの?」
「あ、あたし、今日からそこの売店で働くのよ」
「ずっと?」
「え、ええたぶん」
「仕事何時に終わる?」
「五時だと思う」
「今から登って帰ってくるから待ってて」
「え?日帰り登山するの?」
「ああ。自己記録の更新してくるつもり」
「そう。本格的なのね。いいわ。六時までなら待ってます」
「ありがとう。じゃ」
聡志は新たな目標を見つけたといった様子で目に力を籠め頂上を見つめた。そしてトレッキングシューズの中で足の指を動かし、もう君枝のほうは振り返らずに一歩一歩大地を踏みしめながら去っていった。
「ほら、君枝見てごらん」
「なあに、聡志さん」
聡志の掌に艶やかな赤い小石が乗っている。
「綺麗だろう。この前、森の中で見つけたんだ」
「ふふ。赤くてルビーみたいね」
「生まれてくる赤ちゃんに」
「そうだ。女の子なら名前をルミにしようかしら。ルビーみたいだし」
「情熱的そうだねえ。なんだか心配だなあ。父親としては」
「やだあ」
聡志がまだたいして膨らんでいない君枝の腹を優しく撫でる。
二人は富士山で出会った。
気持ちの良い初夏の早朝、聡志は本格的に富士山の頂上を目指すべく、万全の準備をして五合目を起点とし山の天候を眺めていた。
そこへ君枝が目の前を横切る。真っ赤なピンヒールとミニスカートですたすた歩いている。五合目はまだまだ観光地とはいえあまり目にしないファッションに聡志は目がちかちかした。君枝から見た聡志は本格的すぎる登山の格好に唖然とした。お互いに場違いな印象を受ける。しかしおかしなもので吸い寄せられた視線をかわすことが出来ず、不思議な引力が働いた。
「あの、君。ここで何してるの?」
「あ、あたし、今日からそこの売店で働くのよ」
「ずっと?」
「え、ええたぶん」
「仕事何時に終わる?」
「五時だと思う」
「今から登って帰ってくるから待ってて」
「え?日帰り登山するの?」
「ああ。自己記録の更新してくるつもり」
「そう。本格的なのね。いいわ。六時までなら待ってます」
「ありがとう。じゃ」
聡志は新たな目標を見つけたといった様子で目に力を籠め頂上を見つめた。そしてトレッキングシューズの中で足の指を動かし、もう君枝のほうは振り返らずに一歩一歩大地を踏みしめながら去っていった。