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森の中

第9章 9 決別

 読み終わって便箋を元通りに折り、封筒に戻した。

「なんて、書いてありました?」

 こわごわ心配そうに尋ねる瑠美に
「お見舞いのお礼だよ」
 と、静かに答えた。

 冬樹はこれまで自分の気持ちにも瑠美の気持ちにも配慮をしなかった。

気持ちなど持っても無駄だと思っていたし、妻を亡くしてから感情は凍結していた。

ただただ山の季節の移り変わりに呼応して過ごしてきただけだった。

 瑠美をじっと見つめる。最初は妻に似ている女だと思っていた。今は瑠美自身だと思っている。瑠美は見つめられるままぼんやりと虚ろな表情をしている。

 君枝の手紙の内容通り、彼女はきっと母親を、母親だけを愛してきたのだろう。瑠美を見ると妻を亡くした当時の自分の姿が投影されているように感じる。

自分では決して見えなかった自分の姿はここにあるのだろう。

彼女もこのまま生きているのか死んでいるのかわからないような時間を過ごすのだろうか、と考えたときに、強烈な苦痛と悲しみが冬樹の胸を襲った。

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