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Melty Life

第4章 崩壊






 水和は今しがた歩いてきた道を引き返した。元々、駅と病院は離れていない。

 受付にはさっきも顔を合わせた看護師がいて、面会可能時間内だった。千里の両親は当分戻ってこない感じだったし、祖母もそれなりに気難しそうだったものの、忘れ物を取りに戻ったくらいで咎めてくる人間はいないだろう。

 ひと呼吸置いてノックする。

 返事は、ない。


「…………」


 千里にLINEをしてみるべきか。扉に耳を近づけると、微かな話し声は聞こえる。まだ千里のいる可能性はある。


「千里」


 水和が頼みにしていた名前は、確かに扉の向こうに聞こえた。


「花崎さんのことじゃが」


 自ずと聞き耳が立つ。

 あの孫と祖父の会話には、こうも天気の話でも始める調子で、クラスメイトの名前が出るのか。


「理花さん達が大変だったじゃろう。お前もいつまでも子供じゃない、分別とてつく人間に育てたのじゃろうに、好きにさせてやれば良いものを、厳しい親になりよって」

「うん。花崎さんには、お父さん達の態度で気を悪くさせちゃった」

「お前が気に病むことじゃないんだがのう。安心せい、お前はやりたいようにすれば良いし、わしの目が黒い内は、お前を信じて味方でいるぞ」

「有り難う」

「花崎さんのことも、わしの考えは変わらん。いつかお前が彼女を連れてくる時が来たら、わしはお前と共に、来須の家から彼女を守るからな」


「…………」



 二度目のノックは隼生の耳に届いたようだ。

 水和は入室の許可を得た。

 帰ったはずのクラスメイトに、千里は目を丸くした。
 驚いたにしても、千里の見せた挙動は過剰だったと思う。しかしパスケースのことを話すと、手のひらに馴染んだ合皮製の厚みを差し出してくれた。

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