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Melty Life

第5章 本音


 小野田は一年以上も連絡を断っていた知人の家の敷地内に侵入した。そしてあかりの拘束を解いて、長年事務の仕事をしている会社員らしく軟弱な腕におそらく満身の力を込めて、酷薄な男が積み上げた重石をどけた。

 月明かりの逆光に霞んだ女は、刹那、あかりを戦慄させた。
 一目惚れした高嶺の花に背く行為に数ヶ月に亘って引きずり込まれた記憶からか。単純に目の前の女の婉麗な風格にぞっとしたのか。

 身なりに抜かりなかった小野田は、ともすれば最後に顔を合わせたのが昨日だったかと錯覚を起こすほど、髪が少し伸びた以外は、あかりの知る彼女のままだ。


「貴女の親、相変わらずだこと。今度見たら勝手に通報して構わない?」

「……有り難うございます。どうしてここに、……」

「仕事の都合で支部を見回ることになってね。帰りが遅くなりそうだったから、ホテルをとったの。あかりちゃんがどうしてるかなって」

「そうだったんですか」

「通りかかって、少し昔の感傷に浸るだけのつもりだったのに。こんな時間に会うなんて、驚いたわ」

「初めて会った時は、もっと遅い時間でした」

「笑えない思い出ね」


 加虐に傾倒して猥雑な火遊びを好んでいるところでは、小野田も同じだ。それでいて父親ほどあかりが拒絶を覚えないのは、赤心の有無の差だ。小野田はあかりに暴虐の限りを尽くしながら、その原動力は、好意を伴う情欲だった。同情だった。

 脚の損傷は軽くて済んだ。あかりに痛みが引くまでの間、小野田は洗濯機からタオルや衣服を引っ張り出して、物干し竿に吊るしていった。
 父親の洗い物が残っていた段階で、風呂を上がってきた本人が見えると、小野田は毅然と一礼した。鍵が開いていたと言っても小野田の不法侵入を父親は言及したが、あかりが顔見知りだと説明した。更に小野田が暴虐に関して説明を求めると、世間体を懸念した秀才は、親子喧嘩がエスカレートしたことを恥じる素振りをしてみせて、口外しないよう暗に含んで非礼を詫びた。

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