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僕は貴女を「お姉ちゃん」だと思ったことは一度もない。

第1章 出会い

 それは、僕が小学校へ入学する半年前のことだった。

 僕はもともと、父さんの仕事の都合で、海外で生まれ、5歳までそこで育った。「小学校からは子どもを日本の学校へ」という希望が会社側に通り、ギリギリで日本の本社への異動が叶った父さん。僕たち家族は、父さんの故郷へ引っ越した。
 日本の学校は4月に1年が始まって3月に終わるけど、あちらの学校は9月に1年が始まって8月に終わる。僕も8月で幼稚園を卒園した。仲の良かったクラスメイト達が9月から小学校へとあがるなか、僕だけが、日本へ帰った。卒園半年前の年長児をその時期に受け入れてくれる園は見つからず(もしかしたら親が探さなかかっただけかもしれない)、僕は小学校入学までの半年間をずっと家で過ごすことになった。

そして、そんな僕が、家のすぐ傍の公園で、一人ブランコに乗っていた時、声をかけてきたのが、鈴だった。

「こんにちは。一人なの?」
「……。」

僕が何も答えられないでいると、隣のブランコに座ってきた。

「私ね、すずっていうの。君、名前は?」
「……いつき」
「いつきくんかぁ。かっこいい名前だね」
「……。」
「私ね、実はいじめられてるんだ、学校で。だからね、中学はみんなと違うところへ行くの」

僕はそこで、初めて、隣に座る鈴の顔を見た。鈴は、僕のほうではなく、空を見上げていた。

その横顔は、とても綺麗で、とても……眩しかった。

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