テキストサイズ

不埒に淫らで背徳な恋

第6章 【守るべきものがある人生は幸福ですか?】





「じゃ、田中くんここに座って」




「はい」




「動かないでよ?」




会議室に集まって来月発売予定のコスメやメンズリップのサンプルをテーブルに並べて皆でチェックし合っている最中。




私が田中くんの唇にリップを塗っていると慌てて誰かが入って来た。




「ちょ、何やってるんですか!?」




テーブルに腰掛けていた私と目が合って謎が解けた様子。




「あ、佐野っちお帰り〜!佐野っちも塗ってあげる!」




「あ、いや、あの、それは……」




タジタジな佐野くんに皆が笑いながらからかってる。
それを横目に再び田中くんに塗り始めたら怒っちゃう…?
一連を見て笑う田中くんの顔ごとこっちに向けた。




「こら、よそ見しないの」




「はい……ごめんなさい」




顎に手を添えてリップを塗る。
視線は潤っていく唇。
チラチラ見てるのはわかってる。
だってわざとだもん。
帰る時間帯見計らって、しかも会議室の扉からはあたかもキスしてるかのように見えてしまうシチュエーション。




案の定慌ててたね。
どこまで可愛いの…?
私が田中くんと…?有り得ないのに…?




ここまでしてモヤモヤさせておき、定時になったら真っすぐ帰る。
退社した後は安易に連絡出来ないから更にモヤモヤするんだろうね。







離婚が正式に決まったあの日から3ヶ月あまり経過した。
思った以上なダメージは大きくてすぐには出社出来ないほどだった。




経緯は上司である部長にだけ話してある。
会社の皆にはまだ伏せていてくれていて名前もそのまま畠中で通させてもらっている状況だ。
書類等はもう旧姓の“佐久間”なんだけど。




もうすっかり腕の跡も切り傷も治ったのにまだポッカリと心に穴が開いている。





「畠中チーフ」




「どうしたの?」




「今日、10秒だけいいですか…?」




誰も居ない場所で二人だけがわかる会話。
きっとそろそろ待てなくて意を決して言ってくれたんだと思う。




「佐野くん、その事なんだけど…」




言いかけたところで他の社員が戻って来たから言葉を飲み込む。
アイコンタクトだけでOKサインを出すしかなく、結局タイミングを逃してしまった。




「あれ?チーフ、指輪変わりました?」








ストーリーメニュー

TOPTOPへ