不埒に淫らで背徳な恋
第7章 【愛欲に溺れるのは不修多羅ですか?】
髪を撫でられて私はいとも簡単にスイッチが入ってしまった。
腰に回っていた手で頬に触れてキスしようとした。
というより、一瞬だけ触れたような気もする。
パチクリと開いた目が徐々に焦点を合わせていく。
触れる直前かもしくは触れた瞬間に違うと気付いた。
「あ………月島くん」
急に血の気が引いていく自分と追いつかない脳内。
え、した……!?キス、したのかな!?
触れたような……そうじゃないような。
サッと身体を離す。
必死に頭を整理するも、私が襲っちゃったことは見るからに明らかで。
弁解の余地もない。
「えっと……ごめん、寝ぼけてた」
咄嗟に出た言葉とはいえありきたりな言い訳だ。
手の甲で口元を押さえて感触を確かめる。
「してませんよ?寸止めでした」
顔色ひとつ変えずに月島くんはそう言うんだからそうなんだろう。
そういうことにしていいのかな…?
危うく理性を失うところだった。
変なこと口走ってなかっただろうか。
よりによって何であんな夢見ちゃうのよ。
月島くんを佐野くんと勘違いしてしまうほど私は求めてしまっていたのか。
カーッと赤らんでいくのが自分でもわかる。
疲れてるんだ…と言い聞かせて
「やっぱり明日見るね」と立ち上がった。
このまま仕事を続ける気力も体力も残ってない気がしたから。
いや、羞恥心の方が勝っていたからかも知れない。
しかし、それを阻んだのは他の誰でもなく月島くんで……立ち上がる私の手首を掴み再び視線を奪う。
「嘘です……今、僕はマネージャーとキスしました」
「え…?」
あの感触はやっぱりそうだったのか。
どうしよう……この手を振り払えないし、また座るのも違うような。
見上げてくる瞳はいつものキリッとした瞳ではなく、今までにないオドオドした月島くんだった。
「正確には、僕がキスしそうになってマネージャーがそれに応えてくれた感じに……ほんの一瞬だったんですけど」
ハンマーで後頭部を殴られたような感じとはまさにこのことだ。
頭の中でガーン…と響いてる。
勢いよくしゃがみ込んで私は頭を下げた。