不埒に淫らで背徳な恋
第8章 【本能のまま乱れ咲くのは愛と呼べるでしょうか?】
手の甲で拭い、熱くなった頬を冷たい指先で冷やす。
「ありがとう……帰る」
やっと絞り出した声も掠れてて聞こえにくかったかも。
すぐに立ち上がり手を貸してくれる。
一人で立てるのにどこまで甘やかしてくれるんだろう。
「送ります」
「大丈夫、タクシー拾うから」
「でも…」
「こんなんじゃ電車乗れないから」
「わかりました、僕がタクシー呼びますから乗るところまで送らせてください」
余程心配してくれているのか、罪悪感なのか、単なる優しさなのか。
感情が今ぐちゃぐちゃでよくわからない。
鏡に映る自分は酷い顔をしている。
タクシーが到着するまで待っている間。
「帰ったら何でもいいんで食べれるもの口にしてください、水分だけでも」
「うん……ありがと」
こっち見て言ってくれてるのはわかっているけど私は顔を伏せたまま。
「あと、僕は後悔してません……だから自分ばっかり責めないでください」
コクリと頷くことしか出来なくて申し訳ない。
声を出すとまた溢れてしまいそう。
悔しそうに頭をかいてるなんてわからず、これほど変わり果てた姿を晒していることに気が回らないほど私は落ちていた。
マンションのエントランス前に停車したタクシー。
ゆっくりドアが開いて乗り込む。
最後にチラッと目を合わせたら優しく微笑んで頷いてくれた。
私なんかよりずっと落ち着いている。
私なんかよりずっと傷付いてるはずなのに。
結局何も言えないまま「お願いします」と月島くんは運転手に伝えてドアが閉まり走り出す。
ゆっくり流れる景色に目を向けながらまた鼻の奥がツンとして視界を歪ませていた。
「おはようございます!佐久間マネージャー」
朝一番の爽やかな笑顔。
そういうところも似てるのね。
「おはよう、月島くん」
「あ、先週会議で話してた○○物産の件なんですけど…」
「うん、10時からでもいいかな?ちょっと片付けたいことがあって」
「わかりました」