不埒に淫らで背徳な恋
第8章 【本能のまま乱れ咲くのは愛と呼べるでしょうか?】
そう言うとホッとしたのか屈託のない笑顔が返ってきた。
何もかもがスマート。
自然と肩を抱かれひとつの傘で雨を凌ぎながら助手席へ。
さすが高級車。
座り心地がまるで違う。
広い車内はベージュで統一されていて温かい。
初めて乗ったし、初めてプライベートで時間を共にする。
シートベルトを締めたら何処かへ電話している。
「小山です、今から二人いけるかな?うん……お任せで、そうだね、それでお願いします」
あ、今から行くお店に連絡してるんだ。
話し方も常連っぽい。
電話を切った後、こっちを見て優しく微笑み「行こうか」とハンドルを握った。
静かに走り出した車内で慣れた片手運転。
「寒くない?」
「はい、大丈夫です」
そう答えたのに信号待ちになると後部座席の方から茶色いひざ掛けを渡してくれる用意周到ぶり。
肘掛けに手を付き顎や口元に触れているしなやかな指先。
ヤバい……緊張マックスだ。
こんなに格好良かったっけ!?
ちょっと待って……これは、
ロールスロイスマジックだと誰か言って。
夢のような空間で見慣れない社長の照れた横顔に胸が高鳴っているなんて。
15分ほど走って着いた場所は暖簾の掛かったお寿司屋さん。
うわ、見るからに高そう。
カウンターのみの目の前で握ってもらえるやつだ。
気軽に挨拶しながら入って行く社長の後を着いていくだけで精一杯。
こんなお店、昔接待で行ったくらい。
プライベートではまず来ない。
それが馴染みの店ってさすが。
私にも優しく微笑み席へ案内してくれる女将さんらしき人。
「女性となんて珍しい」と聞こえてきたのはわざとなのか?
まさか…と疑い深いのは直らない。
「ここ本当に全部美味しいから」と言ってた通り一口含んだ時点で悶絶するくらい食べたことのない美味さだった。
苦手なネタも聞かれたが割と好き嫌いのない私は何でもいけちゃう。
全部ひとつひとつ噛み締めていたら大将にも気に入られてしまった。
素直に感想を口走ってしまっていたのだ。
隣に座る社長もニコニコしながら箸を進めている。