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変態ですけど、何か?

第10章 レクイエム

「もちろん伺います。玲子に逢わせて下さい。
家族の人に、なんて罵られても、足蹴にされても構いません!
玲子にもう一度だけ、逢いたい」

あたしは、泣き崩れた。

「今夜9時から1時間、ご家族の方々が食事で席を外されます。
その時に、ゆっくりお別れをなさって下さい。
これは、あなたに対する侮辱などではなく、ご家族の方々の配慮です。
自分たちの前では、ゆっくりお別れができないだろうから、という心遣いなのです」


祭壇には玲子のとびきりの笑顔の遺影が飾られていた。

その写真に、あたしは見覚えがあった。

駅前のカフェで、お互いに撮影しあった時のものだ。
あれがまさか、遺影になるなんて!

あたしの目から、新しい涙が溢れた。

あたしは焼香し、目を閉じて手を合わせた。
玲子との思い出が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。

玲子。
もう一度、話したかったよ。

あたしが目を開けると、運転手さんが、いった。

「里帆さん、とても残酷なお話ですが・・・
お亡くなりになった時の状況ですなのですが、
とても生前の秋野様とは思えない状態でした。
ですから、棺の窓からお顔を見ていただくだけで、お別れをしていただきたいのです」


あたしは頷いた。

宮崎でみたあの岸壁。

あの崖を転落した人間がどのようになるのか、
なんとなく想像はついた。

棺の窓を開ける。

白い包帯にぐるぐる巻きにされた玲子が、そこにいた。
顔以外の部分は花で埋められている。

きれいにお化粧された玲子は、やっぱり綺麗だった。

「玲子・・・。
痛かったよね。
苦しかったよね。
あたし、何の役にも立てなくて、ごめんね。
あたしね、宮崎まで行ったんだよ。
玲子にお花をあげたくて。
それに、あそこに行けば玲子に逢えるような気がして・・・。

玲子。
あんな崖から飛び降りるなんて・・・。

ホントに生きるのが辛かったんだね。
苦しかったんだね」

あたしは、玲子に話しかける。

後から後から、涙がこぼれてくる。

「玲子。
本当に色々ありがとう。
玲子と知り合えて、あたしは幸せだったよ」

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