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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第19章 エピローグ

「高校生になったら、2人部屋に来るの、控えるって言ってたのにね」

「……咲、そんなこと言ってたのか?」

「うん、手紙でね」

2人の会話が、頭上を飛び交う。
恥ずかしくなって離れようとしたけれど、春ちゃんが許してくれなかった。いつもより体力がなく、じたばたもできない。

「……これは、ノーカウントだよ……」

小さい声で苦し紛れに呟くと、優がふっと笑った。

「そうだな、まぁ、熱出して毎度来られても困るけれど……」

体も、心も温かくて、安心していたら、少しずつ眠くなっていった。ずーっと、この大好きな温度に温められていたい。そう思ったけれど、口にはしないまま。

2人の、囁くような話し声が少しずつ意識の外へ飛んでいく。


あぁ、わたしいま、幸せなんだ。



実感したら、ここに来てからのたくさんの記憶が、フラッシュバックした。


アイスを食べた日。

大事なことを知った夜。

夏祭り、並んで花火を見た。

海ではしゃいで、たくさん写真を撮ったこと。

初めての文化祭と、失恋した日。

年越しと、初詣と……。

春ちゃんが帰ってきた日。

ここは、帰ってきていい、『ただいま』と『おかえり』の場所であって。

そして、今日も一緒の布団に、3人で眠る。
これからもきっと、3人でいることには変わらない。そう思えることが本当に嬉しかった。

言いようのないやわらかい感情が、思い出とともに心の中に満ちていた。




「咲、寝たか……? 落ち着いてよかった」

「うん……おやすみ、咲」


わたしは優しい春の日差しのような、温かい夢の中へ、ゆっくりと落ちていった。







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