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龍と鳳

第4章 大野丸

「智君、ホントに海の男だね~
背中が本当に頼もしくてカッコいいなぁ
すげーなぁ、マジで」

「んふふっ、そぉかぁ?」

「あ、待って
今背中の写真撮ってるからそのまま
振り向かないでね~」

カシャッ。

「ん~カッコいい~」

「え、見して見して」

「ほら、この操船してる手がもう職人ぽいっていうかぁ
背中の筋肉もTシャツを通しても分かるし」

「よせよぅ」

さっきから翔君はやたらとオイラを褒めながら、スマホで何枚も写真を撮ってる。

船舶免許を取ってから数か月、ようやくオイラ達は二人きりの船上デートを楽しんでた。
二人して嬉しさのあまりバカップル炸裂だけど。
海はいいよねぇ、誰にも見られない

番組でロケした風の塔の近くで、二人念願の釣りをして。
この間知り合ったおいちゃんに会いに行って、また生のシラスをもらった。

あの放送を見た後の翔君ときたら、もう拗ねちゃって拗ねちゃって。
ちゃんと翔君に食べさせたい、って言っといたのにさ。
ずるいずるい俺が智君の一番なのに、って。
もー、しばらく機嫌が悪くて大変だったんだ。

その後で、囲炉裏を作ったやつが流れた時なんか、顔がマジで怒ってたし。
あれは悪乗りしたオイラも悪かったけど、相手はシゲだよ?そんな怒ると思わないじゃんか。

あの後3日間、仕事以外では口きいてくんなくてさぁ。
オイラはご機嫌を取るのにマジで苦労したんだから。

そんなわけで、今回はとにかく念入りに準備をした。

どんぶり飯に出来るようにご飯も用意して、シラスのおいちゃんに前もって連絡してさ。
クーラーボックスだって新しく買ったし。
生ビールの卓上サーバーに、魚肉ソーセージと辛子マヨネーズも。
オリーブオイルもね。

マメだなぁ、オイラ。
こんなにマメになんのは、相手が翔君の時くらいだよ。

念願の生シラス丼を口いっぱいに詰め込んで、ビールを飲みながら、ご飯粒を飛ばして喋ってる翔君が可愛くて。
暇さえあれば二人でキスをしてた。

ふふふっ。
あ~楽しっ。

オイラ、船の上に居る時か、プライベートで翔君と居る時が一番リラックスするから、今日はホントいい日だ。

「智君っ、振り返ってぇ」

ハートマーク付きの声に誘われて、スマホを構えた翔君に振り返る。

ん? 鳥?

オイラは翔君の足元に、船の上には居る筈のない生き物を見つけた。


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