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龍と鳳

第8章 プリケツ

タンカを切って飛び出したものの、智が追いかけてくる気配はない。
止めるなら今のうちだかんなっ、ってずんずん歩いて。

今のうちだぞ。
今のうちなんだかんなっ。

って思ってる間にどんどんお社が遠くなる。
気がつくと麓近くまでお山を下りてしまってた。
日輪が随分と高く見える。

オレ、一人でこんなに下の方まで来たことないや。ひょっとして神様に叱られるかな。

周りを見渡すと、休憩するのに丁度良いような岩がある。一段高くなってるし、ちょっと休むことにした。

智、心配してるかなぁ。
探して迎えに来てくれる?

でも、神事があるって言ってたから、きっと来ない。

それにオレ、智にバカチンコって言っちゃったし。

「攫われたらどうするんだよ智のバカ…
このままだと人里まで下りちゃうだろ…
誘拐されても知らねーかんなっ…っ…」

人間の世界では鳳凰の肉とかタマゴを食べると不老不死になるって伝説があるらしいんだ。

今でもそれを信じてるアブナイ奴もいるから絶対に本性を悟られるな、って。
参拝客の中には、たまに人間でもオレのことが見える奴も居るんだけど、智は関わらないで無視しろって言う。

自分は人間とも平気で喋るくせにさ。
オレだって神事にも参加したいのに、まだ早い、って。

「…うっ…ひっ、く…」

『御鏡渡りの儀』は、冬の間、麓の里宮に移されてた御神鏡が山開きと共にお山に戻る神事で、里人に春の訪れを知らせ田植えを促す。

眷属のトップに居る智が神事を見守るお役目につくのは当然だし。オレのことよりお役目が大事でも、仕方ない。
そんなのわかってっし。

「うっ…ふっ、っく…」

悲しくなってきた。

智はなんでオレと交尾しようとしないのかな。
オレがまだ子供だから?

だって、羽根だってもう全部赤いし、人形(ひとがた)を取った時もちゃんと毛が生えてるのにさ。
子供扱いするくせに、一緒に寝るのはダメって、なんなんだよ。

だって。

だって、オレ、智が好きなんだ。

智がオレを見てふにゃん、て笑う顔が大好きだ。
抱きしめられると嬉しいし、一緒に居ると尻の辺りがムズムズする。

くっつきたくて、触ってたくて。

なんでわかってくれないんだよ。


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