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龍と鳳

第10章 讃歌

「って、うわ~~~~~っ!!!
どうすればいいの~~~っ!!!」

叫んだら、気を失っていたニノから声がした。

「わあっ、えっ、なにっ!!
たきっ、滝っ
ええっ!!!」

眼下には両脚でニノを掴んでるオレの影が、鳳の姿で水面に映っている。

何とか風に乗れたけど、ゆるゆると高度が落ちてる。このままじゃぁ、いずれ水面についちゃうよ!

遠くで水がごうごうと流れ落ちる音が聴こえてた。

あれ、オレって泳げるの?
ニノは?

「ひっ!!
あ、あぁ……」

頭が真っ白になってバカみたいなことを考え始めた時。息を呑むニノから、死を覚悟したらしい想念が映像と共に伝わってきた。

それはとても美しい、見たことがない景色だった。



見渡す限りの暗闇の中で、無数に光る蛍のような灯り。
緑と黄色のそれらは、お山で見上げる星空よりももっと稚拙で、おもちゃみたいだ。

風も無いのに、点々が火の粉のように動いてる。数えきれないほどの人間が、てんでに灯りを持って揺らしていた。

泣きながら、笑いながら、眩しそうに見つめているのは、一段高くなった舞台に居るニノともう一人。青いセーターとぴったりした長ズボンを履いた男。

これは記憶だ。ニノの大事な想い出。

ニノミヤより頭一つくらい背が高く見えるひょろっとした彼が呼びかけてくる。

『ニノッ!!』

彼がいかにも嬉しそうな顔で笑いかけてくる。離れた場所からこっちに向かって腕を伸ばして手の平を見せた。
パーッてしてから握ると、今度は親指を立ててまた突き出す。

くりくりした、どんぐりみたいな目で、顔中を笑い皺にしながらこっちを見つめてた。

『ニノッ、スタンドバイミー!!』

ぶんぶんと腕を振るその男に向けられたニノの想いが流れてくる。

『君のとなりに……いつも、そばに……』

遠くに見える三人の男たちが、二人を眩しそうに見て微笑んでた。その姿がだんだん霞んで滲んでゆく。

『みんな、ごめん……俺、戻れないかもしれない……』



ニノミヤの諦めかけた願いがオレの胸を熱くした。

呆けてる場合じゃない!!

「ニノッ、必ず助けるからっ!!!」

ニノは沢山の人の子を笑顔にする存在なんだ。落としたら駄目だ。

ニノが大事に思ってるあの人の子も。

ニノ自身の幸せも。

絶対に落としたら駄目なんだっ!!!


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