
メランコリック・ウォール
第40章 親方への告白
「俺は、親方に連れられて来たときからアキさんに惚れてました。…すみません。」
「女に惚れるこたぁ、なにも謝ることじゃねぇけどよ。…相手がアキちゃんときちゃあ、俺ァ…なにもしれやれんぞ。正直。」
「はい…。でも、親方には伝えておきたかったんです。」
「俺ァ、お前を可愛いと思ってるよ。よう働くし、白黒ハッキリしとって良い。アキちゃんだって良い子だ。なんにもなけりゃ、そりゃ祝福してやりてぇけどよ。」
「…」
「…」
しばらくの沈黙の中、それぞれがビールを舐めたり焼き鳥の串を指先でいじった。
「アキちゃん。これからオサムにも言うんだろ?」
「はい…そのつもりです。」
「それならハッキリしといたほうがええ。最初から別れたかったのか、森山と出会ったから別れたくなったのかをよ。」
私は一瞬うつむき、まっすぐに親方を見た。
「うちは、ご存知のとおり…もともと不仲でした。男女としての愛情も、歩み寄る気持ちも、互いになかったのが事実です。だからといって、夫以外の人と恋仲になってもいいなんて事はありません。でも…それでも私は、もうあの人と夫婦でいることは出来ません。」
「オサムに気付かれずに、ここまできたんか?」
「いえ…知られていると思います。」
「それでオサムは何も言わないのか?どうなってるんだ…まったく…」
私とキョウちゃんは目を合わせ、戸惑った。
オサムが私たちになにも言えないのは、桜子ちゃんの存在があるからだ。
しかし、それを親方に言うのはなかなかに気が引ける。
傷つき、怒り狂うか、はたまた泣いてしまうか。予想もできない。
「まさかオサムも外に女つくってんのか?」
ギクリとするような一言で、私たちは再びうつむいた。
「主人は…他の女性と遊んではいます。でも、私たちは遊びではありません。もう…森山さんのお父様ともお会いしました。お父様も、状況は知っています。」
「この正月にか?」
親方がキョウちゃんに問いかけた。
