
メランコリック・ウォール
第42章 異国の地へ
「まぁ、最初はそんなに奪い取ってやろうとか野心はなかったよ。結婚してるし…な。」
「うん…」
「でもほっとけなくて、…そうだなぁ、花見のときくらいから、もう止まらなくなってたかな。」
「あ…私もそうかも…」
初めて親しくなった実感がわいた花見の日。
それまでにもあった胸のときめきが、見て見ぬ振りはできなくなった。
「ね、アキ。来月、俺が仕事辞めたらさ」
「うん?」
「また1週間くらい休み取るとか…無理だよな。」
「どうかなぁ。私いままで、休みって取ったことがないから…その点で言えば、取りやすいかもしれないね(笑)社長に聞いてみる。九州へ行くの?」
「いや…ほんとの慰安旅行(笑)バリ島いこう!」
「バリ島?!」
昔、キョウちゃんがまだ地元にいる頃、彼はサーファーだった。
当時サーフィンをしに海外へ行くこともあったそうで、中でも一番気に入ったのがインドネシアのバリ島だという。
…
翌朝、私はすぐに義父へ申し出た。
こういう許可を得るには、早いほうが良い。
「あの…来月、お休みが欲しいです。」
「お?珍しいね。もちろんいいよ、何日くらい?」
「できれば、1週間ほど…」
義父は驚いた顔をしたあと、なにかを把握したように首を縦に振った。
その週末、私はキョウちゃんと共にパスポートの申請へ出かけた。
1週間後に発行されたパスポートは、キョウちゃんにプレゼントしてもらったあのケースへ収められた。
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3月に入り、キョウちゃんは正式に仕事を辞めた。
オサムは相変わらず謹慎中で、親方と義父はいつもどおり現場へ出かけていく日々が続いていた。
幸か不幸か、大きな現場の予定はない。
親方ひとりでもしばらくは大丈夫そうだ。
「それじゃあ明日から、お休みいただきます。」
「ん。出かけるんだよね?」
「はい。」
旅行前夜、義父と少ない会話をして自室へ戻る。
オサムの部屋からはRPGゲームの音楽が聞こえた。
