
メランコリック・ウォール
第46章 地植え
「ふふん、そうかそうか。そろそろ鉢がきつそうだからな、地植えしてやらにゃ」
お父様はどこか嬉しそうに答え、がらりと縁側から窓を開けた。
それから、いくつか植える場所を提案してくれて、クチナシの苗木はその庭の一員となった。
嬉しくて笑みがこぼれる私を、キョウちゃんは優しく見つめていた。
その夜はたくさんのごちそうと地酒で宴を楽しみ、お父様は「やっと九州に帰ってきた」と所々で口にした。
「俺が関東に行くこと、嫌がってたからな(笑)」
寝る前、キョウちゃんはそう言って笑った。
それから2週間ほどは、穏やかな日々が続いた。
お父様は毎日ご機嫌で過ごしていたし、マサエさんと私は一緒に買い物に行って料理をし、キョウちゃんは釣りに出かけたりもした。
九州に来てから、義父には二度電話をした。
相変わらずオサムは離婚届を書く気がないようだと言い、私が九州で元気に過ごしているという報告には「そうか」とだけ答えた。
そんなある日、朝起きると携帯に不在着信がなんと50件以上も入っていた。
何事かと確認すると、すべて非通知からかかってきたものだった。
嫌な予感が走り、背筋が冷えた。
でもまさか、こんな事をするだろうか…。
なにかの間違いではないだろうか。
しかしその思いとは裏腹に、その翌日にも着信が30件以上あった。
キョウちゃんに非通知の拒否設定をしてもらったけれど、不安は拭われない。
「夫だったら…どうしよう」
「とにかくもう少し様子を見よう。念のため、あんまり外には出ないようにしてくれ」
「うん…。」
「大丈夫。俺がいる。」
力強く抱きしめてもらっても、脳裏にかかる不穏な雲は消えなかった。
このままではキョウちゃんやその家族にも迷惑がかかるかもしれない。
そう思い、私は翌日オサムへ電話をかけた。
長いコール……あきらめようかと思った頃、「あぁ」とぶっきらぼうな低い声が聞こえる。
