
メランコリック・ウォール
第47章 Red Line
9月になり、私は考えていた。
「そろそろ仕事とか、探そうかなって…。」
キョウちゃんはトーストをかじりながら、目を丸くした。
「なんで?」
まさかの返しに私も驚いた。
「なんで、って…。このまま毎日いさせてもらってるだけじゃ、申し訳ないよ。なにかしないと…。貯金だって、いつかは無くなっちゃう…。」
「アキが働きに出たいなら止めないけど、そういう理由なら…もうちょい待っててほしいな。」
二枚目のトーストにいちごジャムを塗りながら、どうってことないふうに彼は言った。
「…?」
私は首をかしげた。
「独立、しようと思ってちゃんと考えてるからさ。とりあえず今年はこのまま待っててほしいなって。どう?」
結局、あと3ヶ月は私もキョウちゃんも無職でいる事に話が落ち着いた。
そのうちキョウちゃんは開業の手続きで忙しくなるだろう。
「私は…――。」
「心配してんだろ?お世話になってばっかりーとか」
「う、うん…。」
「今でもじゅうぶん、家のことやってくれて助かってるよ。けど、開業したら…事務仕事とか、」
「私、やる!」
「ふふっ。うん、ありがとう。頑張ろうな。」
来年になれば、キョウちゃんは事業主となり、私はそのサポートをする。
ほんの少しずつだけれど、2人の未来が形になってきている。
やはり、一刻も早くオサムと決着をつけなければならない。
しかし、オサムは相変わらず「別れない」の一点張りだと、ときどきよこす電話で義父が言った。
…
「しばらくの間といって、もう3ヶ月も経ってしまって…。ごめんなさい、お世話になりっぱなしで…。」
10月になり、その日私はお父様といっしょに柿の収穫をしていた。
市場に出せそうなほど、でっぷりと景気よく太った柿が艶めいている。
「なあに。今さらどこかへ行ってしまうわけではなかろう?」
お父様はこうして、少しさみしげな表情も見せてくれるようになった。
