
メランコリック・ウォール
第49章 トマト
荷物を置きにキョウちゃんが寝室へ入り、私は入り口で立ち尽くしていた。
「…?どした?…アキ?」
異変に気づいたキョウちゃんが目の前までやってきて、首をかしげた。
「キョウちゃん……あのね…」
「うん?」
「……」
「何?どうした?」
いよいよ本格的に心配を始めるキョウちゃんに、私は勢いよく言葉を吐き出した。
「に…にん……っ妊娠したみたい!」
ぎゅっと目をつむり、彼の声を待った。
しかしなかなか聞こえない返事に不安になり、そっと目をあけた。
キョウちゃんは…
目を見開き、ニヤついているような驚いているような、なんとも言えない表情で佇んでいた。
「えっ…ちょっ…キョウちゃん?」
「アキ……。マジかっ!」
その瞬間、彼は私の頭をぎゅうっと抱きしめた。
息が苦しくて…嬉しかった。
隠しておいた妊娠検査薬を見せると、キョウちゃんは物珍しげにしばらくそれを凝視した。
「判定…終了…?」
「うん。ここの判定の窓に赤い線があると、陽性なんだって…」
「どう見ても…あるな!」
「うん!」
私たちはまた見つめ合い、言葉にできない思いを抱擁で伝え合った。
それから、12月に入ったら病院に行きたいことや、トマトばかり食べたくなるという話もした。
「俺明日、市場でトマト買ってくる。」
「ふふっ。私も行くよぉ。」
「大丈夫なのか?動いても…」
「病気じゃないもん。いつもどおりでOKって、うずらクラブに書いてあったの。」
私は妊婦用のサイトで目にした情報を伝えた。
「そ、そうか…。でも無理は駄目だ、絶対。なんかあったらすぐ言えよ。そういえば、つわりとかは…?」
「なにもないの…。食べづわり、っていうのもあって、トマトばっかり食べたくなるのが…そうなのかも…?」
分からないことだらけで、自信もない。
だけど最近変わった事といえば、本当にそのくらいだった。
