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まこな★マギカ

第1章 如章


ここ最近、俺は奇妙な夢を見るようになった、それも頻繁に。なにが奇妙なのかと言うと、朝はっとなって目覚めても、夢の内容が全く思い出せない。強烈に印象的で尚かつとてつもなくリアルな夢だと言うのは確かに覚えているのに、肝心の内容がさっぱり思い出せない。あともう少しで思い出せそうなのに、結局いつも思い出す事が出来ずにいる。まあ、夢なんて所詮そんなもんだろう、と言われればそれまでなのだが、その夢を見たあとに目覚めて少し経った頃、俺は決まってある少女の顔を思い出す。逆にその光景は、ずいぶん昔の事であるにも関わらず鮮明に脳裏によぎる。そして、それと同時にその少女の言葉も思い出すのだ。あの時まこなが言った言葉を、俺はふと思い出す。

それはさておき、その出来事がどれぐらい前の事かと言うと、あれは今からおよそ十五年前に遡る。舞台は、新宿――歌舞伎町。今はどうだか知らないが、その当時、あの街には、おびただしい数のホストクラブがひしめき合いせめぎ合いしのぎを削っていた。区役所通りを中心としたあの小さなエリアに、数百件もの店が軒を連ねていた、そんな時代だった。 

俺が働いていた店――『今夜はparty·KNIGHT−CLUB 』、通称――『パリナ』も、もちろん例外ではなかった。あの当時、俺はそこで必死になってあるものを追いかけていた。いや、それは俺だけじゃなかったろう。あのエリアで働く者ならばきっと誰もが追いかけていただろう。酒と色と欲にまみれながら、誰もが手にしたかったろう。それは、それほど尊く価値のあるものだったからだ。とはいえ、俺は案外あっさりとそれを手に入れていた。まだパリナで働き始めて一年にも満たない頃、弱冠二十歳の頃に。歌舞伎町で、誰もが欲しがる称号を意外と簡単に手にいれていたのだ。

だが、あいにくこの話は、そんな華やかなサクセスストーリーを語るものではない。始まりは、さらにその二ヶ月後の初夏の頃。あの日俺は、真夜中の歌舞伎町をあてもなくさまよっていた――と言うか、歌舞伎町で途方に暮れていた。店はその2時間以上も前からすでに営業を始めていた――にも関わらず、ネオンが煌々ときらめく中で、目に映る全ての女に声をかけていたのだ。




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