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冬のニオイ

第17章 Don't you love me

【潤side】

智が熱を出して倒れたのが土曜日。
医者が必要な時って、どうして土日とかの休診日なんだろうか。

手当たり次第に当番医を探して病院へ連れて行くことも考えたけど、荒い呼吸で震えて、話しかけてもまともに返事も出来ない智を動かすのは、どうにも可哀想ではばかられた。

翌、日曜日になって、一旦智の熱が下がり。
病院へ行こうと勧めたけれど、今度は智の方が、家で寝てれば治る、月曜日にインフルの検査をしてもらうから、と言ってきかなくて。

俺に迷惑をかけないように、とか考えてたんだろう。ふらふらしてるくせに、一人で家に戻ろうとして。
送る、送らないでもめているうちに、また熱が上がって、貧血を起こして座り込んだ。

結局、智が動けるようになったのは月曜になってからだった。

「どうせ有休が余ってるんだから平気なのに」

出勤前に智の家に近い病院まで送る。
駐車場で一緒に車を降りようとしたら、一人でいいからと断られた。

「ダメだよ、休むなんて。
販売事務所は当番で詰めてるんでしょ?
他の人に迷惑がかかるじゃん。
ちゃんと仕事に行ってください」

自分だけシートベルトを外すと、めっ、と俺を見る。

怖い顔を作っているらしいけど、どこからどう見ても上目遣いが可愛いばかりで。

「ねぇ、潤は本当に体調悪くない?
うつってないかなぁ、大丈夫?」

そう言って俺の額に手を当てた。
倒れた時の取り乱し様や、寝込んでいる間にうなされていたのが嘘みたいだ。
心配そうに俺を気遣って言う様子は、もういつものこの人と変わりないように見える。

優しくて控えめで。
物静かで柔らかい。

俺の知っている、大野智。

「……俺は大丈夫だよ」

笑いかけながら、諦めようにも諦めきれない想いがこみ上げてくる。

公園で子供と踊っていた姿。
涙が出る程笑っている様子を見て、言いようのない嫉妬を覚えた。

いつもおっとりして、のんびり、ふわっ、としてるのに。
あんな風に踊ったり笑ったりして。

ずっと屈託なく笑う顔を見たいと願って来たけれど、それは、他の誰かによってもたらされるものじゃなかった。

俺が、智を笑顔にしたかったんだ。


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