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冬のニオイ

第2章 Flashback

【翔side】

11月のその朝は、懐かしい人の夢を見て目覚めた。
仕事で行き詰ってくると、俺は決まって同じ夢を見る。
コートが必要な季節になると、尚更だった。

昨日は生徒と言葉の行き違いが起きて、コミュニケーションが上手く取れないままマンツーの授業が終わった。

俺の選んだ言葉のどれかが、きっとあの子を傷つけたんだ。

具体的にどの言葉がまずかったのか寝る直前まで考えていたけれど、一夜明けてもやっぱり特定出来ない。
でも結局のところ、何を言った、言わないの話じゃないんだ。

問題は俺があの子の信頼を損ねた、ってことだ。

明日は、無事に来てくれるだろうか。

寝起きから溜息が出た。



自分でもわかっている。
もう二度と間違うな、って心が警告すると、俺はあの人と別れた時の夢を見るんだ。
そして毎回、自分の嗚咽で目が覚める。

最後に会ったのは2007年。

状況証拠だけで俺を裏切ったと決めつけて。
泣かせて。
失ってしまった恋人。

あの人だって俺に言いたいことが絶対にあった筈なのに。
何の言い訳も弁解もせずに、ただ黙って俯いてた。

「何とか言ってよ、智君。
俺だって、そうやって黙っていられたら認めてるんだと思うしかないでしょ?」

焦れた俺は、夢の中でも過去と同じセリフであの人を責めていた。

一生懸命涙をこらえてる智君は、唇も指も震えてたのに。

「言ったら翔くん、オイラのこと信じてくれんの?」

恐らく、ようやく絞り出して言ったに違いないんだ。
なのに馬鹿な俺は言う。

「正直、難しいよね」

やめろ。
もう、言うな。
それ以上言ったら、取り返しがつかなくなるんだっ。

俯瞰で別れを追体験しながら、夢の中のもう一人の自分に向かって必死に叫ぶけど。
自分が傷ついたことで怒りに我を忘れてる過去の俺は、全く冷静じゃなくて聞く耳を持たない。

そうだ。
聞く耳を持たなかったから、あの人を酷く傷つけた。
あの人を拒否して突き放した。


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