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冬のニオイ

第6章 Imaging Crazy

【智side】

現場の様子を見に行ってコーヒーをご馳走になってから、最寄り駅まで、またのんびり歩いて会社へ戻る。
道中、松本君への返事をどうしたらいいのか考えてた。

オイラはどうしたいんだろう。

潤は優しいし、真面目で誠実だと思う。
仕事ぶりを見ても優秀だったし、決して嫌いじゃない。
と言うか、彼と一緒に居るのは正直楽しい。
心地良いのは間違いなかった。

あんなにカッコいいのに、年下なせいか妙に可愛らしくて。強引なところも憎めない。

でも……恋愛として好きかと考えてみると、自分の気持ちがわからなかった。



彼とはパーティーの後、何度かプライベートでも会っている。
オイラとしては、そこまでの付き合いをするつもりはなかったんだけど。
何だか、爽やかな押しに負けてしまったと言うか。

いつも仕事で顔出しに来た時に勝手に約束されちゃって、断っても全然めげないし。
ほだされたって言うか。

認めたくないけど、要は自分自身が人恋しかったのかもしれないとも思う。



翔くんと別れてから、この10年、特定の相手は居ないままだった。
いい人だな、って思う人が全く居なかったわけでもないけど、さ。

ダメなんだ。

オイラは臆病だし。
人の気持ちは変わる、って知ってる。
多分、自分が本気で夢中になれる相手じゃないと、ダメなんだと思う。

ん~……夢中、ってのもちょっと違うのかな?
何も頭で考える余裕もなく、気持ちが勝手に先へ行く感じ。

止めよう。
考え始めると蓋が開きそうだ。
考えない方が良い。

思い出さない方が、いい。



あのコートが消えてしまったのも、もう必要がなくなったってことなのかもしれないし。
消息を知ったところで、現実的に考えて翔くんとこの先どうにかなるなんて、有り得ない。
終わってるんだから。

潮時、なのかな。

いつまでも手放せなかったコートが無くなったのは、そういうことなのかも。

お互いに新しい別々の人生を生きてるんだ。
過去のこととして完全に線を引いて、しっかり今の現実を生きろ、って。

となると、今目の前に居るのは、潤ってことになる。
オイラはどうしたいんだろう。

考えても結局ふりだしだった。


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