テキストサイズ

冬のニオイ

第6章 Imaging Crazy

【智side】

「この後、俺に付き合ってよ。
買い物して、食事かな」

「え、あの、なんで」

オイラが気の進まない素振りをしたら、ふっと表情がかげった。枕に頬杖をついた姿勢で、しょんぼりと俯く。
肩から腰までのしなった躰のラインと白い肌が眩しくて、 オイラは思わず目を伏せた。

前から芸能人みたいだな、とは思ってたけど、仕事を離れたプライベートの松本君は、直視できない程にセクシーだった。
この人と、やっちゃったのか、と思って顔が熱くなる。

「大野さん、俺、とっても悲しい」

「あ、あの、ごめん」

「俺、嬉しかったんだけどな……。
そっか、憶えてないんだ……残念……」

尻すぼみに段々声を小さくして言うのが本当に傷ついてるように思えて、オイラはバツが悪くて顔を上げられなくなった。

「ね、こっち見てよ。
責めてるわけじゃないんだ。
あなたが忘れてても俺は憶えてるしね。
密かにずっと好きだった人と抱き合えたんだから、俺にとっては最高の夜だったよ」

話してるうちに目が覚めてきたのか、声が聞きなれた丁寧な口調に変わっていく。
躰を起こした気配がして顔を上げると、潤は片膝を立てた状態でその上に肘をつき頭を支えてた。
ずれた布団から見える脚の付け根の繁みに気づいて、オイラはまた目を逸らす。
松本君の肌にも、赤い印がいくつも残ってた。

「これからも仕事で顔を合わせるんだし、お互いに気まずくなりたくないでしょ?」

柔らかく言われたのにどこか威圧感があるというか。
イケメンが持つオーラに負けたというか。
言ってることは至極まともだし、オイラは仕方なく返事をする。

「あ、はい」

「だったら買い物ぐらい付き合おうよ。
別に責任取って結婚してなんて言わないし。
大丈夫、俺、間違っても他言したりしないから。
安心して?
ね?」

面白がってからかう口調で言ってるけど、オイラとしては笑うに笑えなくて。

「う、あ、はい……」

これは脅しと紙一重じゃないかなぁ、って思いながら、結局従うことになった。



潤は裸のままで気怠そうに近づいて来ると、俺の頭を優しく胸に抱き寄せて言った。

「俺、大野さんのこと、ずっと好きだったんだよ」

その言葉は聞いたことがある、と思って。

前の晩に聞いたのか。
それとも昔に聞いたのか。



『俺、貴方のこと、ずっと好きだったんだ』


ストーリーメニュー

TOPTOPへ