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冬のニオイ

第7章 Cry for you

【智side】

「……無いものは仕方ないよ。
でも、探してくれるって。
行こ……」

笑って見せたのに、潤は心配そうな顔をした。

「大丈夫だよ、別に平気だから。
もう大分古かったし、そろそろ新しいのを買ってもいいかな、って思ってたんだ。
ほら、もう行こうよ」

オイラがホテルの人に会釈をして背を向けると、後ろで潤が、よろしくお願いします、って言ってるのが聞こえて、感心したのを憶えている。
他人のことなのに優しいなぁ、って。

松本潤、という男は、こういうところが結構きめ細やかに行き届いていて、優しいんだよ、ほんとに。

ウチの事務所に顔を出し始めた頃は、堂々としてて、ちょっと威圧感があるなぁ、と思ったけど。
何度も顔を合わせるうちに、本人にはそんなつもりは全くないんだって分かってきた。
誤解されやすいだけなんだ。

彼は子供っぽいところもあるけど、基本的には真面目で優しい、気配りの人だった。

実際、潤の買い物に付き合って洋服を見て回ってた時も、オイラが退屈してないか随分と気に掛けてくれてさ。

疲れてない? 大丈夫?
もしかして眠い?
ねぇ、何か欲しいものはないの?

って何度も訊いてくれた。

オイラはそもそもファッションにはあんまり興味が無いから、文字通り、単純に付き合うだけのつもりでいたんだけど。

俺でも知ってるイギリスの有名ブランド店で、店を出る時に突然コートを着せかけられた。

「……何?」

「俺からプレゼント」

「え、なんで?」

「さっき保険証見ちゃった。
大野さん、今日が誕生日なんだね。
おめでとう!」

「あ、うん。
じゃなくて、これ結構イイ値段するでしょ?
受け取れないよ」

「ダメ。もう支払い済んでるし。
人からのプレゼントを突き返すようなこと、出来る立場なのかなぁ~。
全部忘れられた俺ってマジかわいそうだよね?
ああ、それにしても、昨夜の智は本当にかわ」

「ばっ! やめろって!!」

潤は楽しそうにニヤニヤ笑いながら、いたずらっ子みたいな顔でオイラを見てた。

「ふふっ、本当に可愛かった」

「…………」

結局オイラはコートを受け取ってしまい、なし崩しでそのまま着させてもらってる。

それが、37歳、誕生日当日の出来事だった。


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