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冬のニオイ

第8章 Come back to me

【潤side】

店に到着すると、やっぱり時間帯から言って予想通り混み合ってたけど、折よく会計を済ませたお客さんが出て来るところでカウンターに空席が出来た。
片付ける間、ちょっとだけ待って欲しいと大将に言われて、二人で店の外に出る。

無いことに、店の真ん前に黒塗りの超高級な国産車が停まってて、ハザードを出していた。
何となく俺は、大野さんを隠すように立ち位置をとる。
チンピラが乗れるような車ではない。
どちらかと言うと、やんごとなき方々御用達の車種だったけど、妙な輩に絡まれてはかなわない。

自分が目立つタイプであるらしい自覚はあるから、一緒にいる人を守るためにはこういう注意は常に必要だった。

大野さんに気づかれないように、いつも通りに話しかける。

「カウンターが空いててラッキー」

「なんで?」

「あなたと並んで座りたいから。
向かい合わせに座るより、隣同士の方がもっと仲良くなれるでしょ?」

酔ってガードが緩んだあなたに、沢山触れるしね。

ふざけてウインクして見せたら、智は口を開けて固まってしまった。

「松本君って、すげぇな。
いつもこんな直球?」

あれ? 引いた?

「いつも、って言うか、俺のまんまで付き合いたいだけ。
何を言っても穿って受け取る人って必ずいるし、だったら気にする方が疲れる。
大事な人には誤解されたくないじゃん。
不安にもさせたくないし。
だから思ってることは正直に言う」

「ふぅん……」

大野さんが、ちょっと考えるみたいに黙り込む。

「あなたも俺には遠慮しないで、思ってることはちゃんと言ってね。
俺、しっかり聴くから」

「……うん。松本君は大人だなぁ」

「当たり前でしょ、実際大人だもん」

智は、そっか、と言って、ちょっと笑った。
いつもこの人は、なんだか楽しむことを自分に禁止してるみたいに大人しい。
酔ってふにゃふにゃ笑ってると赤ちゃんみたいで可愛いのに。

「智」

「ん?」

笑って。

「二人きりの時は潤て呼んでくれる約束でしょ」

「……うん」

付き合って、って返事を保留にする代わりに、俺からお願いしたこと。

「潤」

「はい」

笑いかけたら、大野さんの顔がちょっと明るくなった。

智、笑って。
一緒に人生を楽しもうよ。
その為なら、俺はどんな馬鹿な事でも何でもやるから。


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