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冬のニオイ

第10章 Tears

【智side】

突然の出来事に何だかオイラも潤も調子が狂ったというか、店の中に戻ってから会話ゲームを再開しても続かなくて。結局、大して飲まずに早々にお開きにしてもらった。

潤にはもう少し一緒にいたい、って言われたけど。もしかしたらオイラは風邪を引いたのかもしれない。
外に出たせいなのか、何だかだんだん体調が悪くなってきた気がして。
そう言ったら潤も理解してくれた。

隣にある店で飲むとき、潤はいつもウチの会社の来客用駐車場に車を置いて帰る。
オイラの住んでるマンションは歩いてすぐのところにあるんだけど、オイラんちを通り越した先に駅があるから途中のコンビニまで毎回二人一緒に歩いた。

潤はウチに来たことがない。
大体この辺、ってしかマンションの場所も教えてない。

翌日にわざわざ車を取りに来ることになるし、泊めた方が良いのかな、ってオイラとしては気まずいんだけど。
下手に泊めてしまって、またやらかしたら、もう本当に自分が嫌になる。

申し訳ないと思いながら、今回も、寄っていく? とは言えなかった。



お互いに物思いに沈んでるのか、歩きながら会話もなく二人とも黙ってて。オイラも改めて潤とのことを考えた。
群青の夜空にかかる白っぽい氷のような月を眺めて。
やっぱり恋人として付き合うって話は断ろう、と自分に言い聞かせた。

考える時間をもらったのに結局こんな返事なんて、物凄く気まずいけど自業自得だ。
全部オイラがハッキリしないのが悪い。

ああ。
自分がマジで嫌になる。

相手のことをもっとよく知ったら、オイラも潤に対してそういう気持ちになれるかもしれない、って。
自分は一生一人でいいんだ、って頑なでいるより、そろそろ前向きに考えてみるのもアリかもしれないなと思ったんだ。

潤はいつも直球で。
優しくて、真っ直ぐで。
ちょっと強引で。

時々俺様になるけど、実は神経が細やかな気配りの人だ。
オイラのことを本気で恋人にしたい、って一生懸命伝えてくれて、こんなに良い人はもう現れないかもしれない。

なのに。
やっぱりオイラは、どうしたってその気持ちに応えられない。


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