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副業は魔法少女ッ!

第1章 アルバイトで魔法少女になれるご時世



 余命宣告を受けた翌々日、死神がゆいかを勾引に来た。

 紅霞の反照を受けた女は、見慣れた街の風景に、たった一人で浮いている。
 顔かたちや格好は、多数決を好む世間が個人を「普通」と断定するための基準に、彼女も外れていなかった。ただし彼女の歯に衣着せぬ物言いは、彼らに好まれにくいだろう。


「そんな怯えないで、お姉さん。占術に自信はあるけれど、私はこの才能で生計を立てたりしていない。よって、貴女を無理矢理占ったり、宣伝文句と値段だけはご立派な、その実、効果なんてほとんどないおまじないグッズを売りつけようとは、考えてもいないから」

「あたしが怯えて見えているなら、失礼しました。それは誤解です。でも、警戒はしています」

「ふぅん、正直な子。もう一度言っておくけれど、これは私の収入源じゃない。その上で、胸が張り裂けそうなのをこらえて貴女に声をかけたのだから、それだけ切実な用件なの」


 死神、もとい自称占い師の出鱈目は、見事にゆいかに当て嵌まった。

 花冷えが肌を刺す夕刻、まばらな通行人らはよそ見もしないで、帰路を急いでいる。女二人が対峙していたところで、見向きもしない。それを良いことに、水彩風の明るい花柄のロングスカートを履いた女はまた一歩、ゆいかに進み寄ってきた。


「人は寡欲であることを美徳としがち。ことに名誉や金銭、命に関する執着まで、顔に出しては野蛮だと、横暴な理想を押しつけたがるわ。他人にも、自分にも」


 女との距離が腕一本ほどに至ったところで、ゆいかははっと彼女を見た。

 夕明りの薄れた彼女は、存外に親しみやすい顔立ちだ。気取った言葉つきだけをとれば年長に感じていただけで、年のほども二十代前半、ゆいかと変わらなさそうだ。


 人は、繊細で悲劇的であるほど美を見出しやすいと、どこかで聞いたことがある。

 現実に美に携わる職種に就いて、それが根拠もない絵空事であったことを、ゆいかは身にしみていた。

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